[書評] センセイの書斎 - イラストルポ「本」のある仕事場/内澤 旬子【著】
少し前に書いた『オーダーメイド殺人クラブ/辻村 深月【著】』の書評が結構いろいろリアクションいただきまして。『長いよ!』ってのもあったりして、それはそれで『好きな本をストーリー追いながら書いたらそうなるよ』って言い訳はしておいた。だけど後になって改めて文字数を調べてみたら、400字詰め原稿用紙を軽く15枚分以上くらい書いていた。
そんなこともあって、あまり長いのばかりを書くと書いてる側のこっちも結構大変だし、読んでくれる人も大変そうなので、今回はそんなに長くならなそうな本を選んでみた。
この本について
この本は Amazon で買ったからちゃんといつ買ったかの記録が残っている。2018年9月17日に買ったようだ。
そしてこの本はイラスト付きのエッセイ集。そんなに堅苦しい文体でもないし、むしろかなり砕けた感じで書かれたエッセイなので、小説作品とは違って読むのにエネルギーはさほど使わない。
ここでも前回の書評に倣って、この本の出版社である河出書房新社のサイト内にある公式の説明文を載せておこう。
南伸坊、森まゆみ、養老孟司、津野海太郎、佐高信、上野千鶴子……。細密なイラストと文章で明らかにする、三十一の「本が生まれる場所」。それぞれの書斎は、その持ち主と共に生きている。
【収録書斎】林望/荻野アンナ/静嘉堂文庫/南伸坊/辛淑玉/森まゆみ/小嵐九八郎/柳瀬尚紀/養老孟司/逢坂剛/米原万里/深町眞理子/津野海太郎/石井桃子/佐高信/金田一春彦/八ヶ岳大泉図書館/小沢信男/品田雄吉/千野栄一/西江雅之/清水徹/石山修武/熊倉功夫/上野千鶴子/粉川哲夫/小林康夫/書肆アクセス/月の輪書林/杉浦康平/曾根博義
この本との出会い
普段、一日のほとんどの時間を自宅の書斎兼ワークスペースで過ごしている自分。この本を手に入れた2018年当時と今ではまた自宅の書斎事情も変わったものの、当時から毎日長い時間をそんな書斎空間で過ごしているから、単純にこんな疑問を感じることがよくあった。
『毎日多くの時間を書斎で過ごす他の人の書斎ってどんな感じなのだろう?』と。
まあ今時ぐぐってみたり、Pinterest にだってそういうのはいくらでもあるだろうし、YouTube でもデスクツアーとかそんな動画を探せば出てくるわけだけど、なんかそれを "ちゃんとした本" として、書籍としてのフォーマットで読みたくなった。
ただね、実際にそういう書籍を探せばわかるんだけど、なかなかこの本のようなフォーマットやテーマで書かれた本ってのがない。写真ムックみたいな形で、悪い言い方をすれば素人(?)のインテリア自慢、いい言い方をすれば『非日常を演出するためにキレイに片付けたインテリア』を掲載するような本はいろいろ見つかるんだけど、それって YouTube のデスクツアー動画なんかとあまり違わないし、自分が探していたのはそれではない。まあああいうのはある種の写真集として楽しむにはいいんだけれども、この時の自分が求めていたのはそれではなかった。自分が探し求めていたのはどちらかというと『生活感のある普通の書斎』の姿。
そんなふうに本を探している中で、冒頭にも貼った表紙に描かれていた本文中にも出てくるイラストを見つけて『これがいいかな?』と手に入れるに至った。
一編一編が短くて読みやすい
この本では上に引用した【収録書斎】が部屋/個人別にそれぞれ数ページ分くらいの独立したエッセイ+その書斎のイラストとしてまとめられているので、とにかく読みやすい。全編を通して読んでもいいけど、気になった部屋の部分だけをつまみ食いしながら読むこともできる。
イラストや装丁の仕事をする合間にいただいていた書斎のルポをまとめたもので、掲載雑誌が隔月出会ったり季刊であったりしていたために、単行本として出せるまでの量がたまるまでに七年もの歳月がかかっている。
(文庫版/P. 230)
著者自身が上記のようにあとがきでも書いているが、この本に登場するそれぞれの書斎は一編一編、独立したルポとして書かれてきたものをまとめたものだから、それぞれの話に繋がり自体もない。
そんなだからこの本を手に入れた当時の自分も、ぱらぱらとページをめくりながらおもしろそうな書斎イラストが掲載されているところつまみ食いで読んでいた。全編通して読んだのはこの本を手に入れてからだいぶ後になってからだったように思う。
イラストルポ、と銘打たれた本書
この本はタイトルにも『イラストルポ』と付されているように、掲載されている31の書斎のそれぞれのイラストも非常にポップでありながらも、同時に資料的価値までもありそうなものばかり。また、上に貼ったとある一ページからもわかる通り、イラストには著者自身の手によって手書きのメモ、コメントのようなことも書かれまくっている。
もちろん全編通して著者自身の手描き/手書きを印刷物化したわけではなくて、手書きコメント以外にちゃんとしたエッセイが綴られている。ただ先に書いたように、そもそもこの本に出会うことになったのは『毎日多くの時間を書斎で過ごす他の人の書斎ってどんな感じなのだろう?』っていう単なる好奇心が全てのはじまりだった。それもあってかエッセイ部分以上に個人的にはこの手書きのメモ、あるいはコメントも隅々まで目を通して?目を奪われて?しまった。
これはこの本の特徴のひとつなのかもしれないけれども、一旦全編に目を通してしまったあとは、数回程度しか読み返さない書斎もあれば、何十回、何百回と思わず読み返してしまいたくなる書斎もある。どの書斎を読み返したくなるのかは完全に読み手の趣味趣向だろう。
作家・同時通訳者の米原真里さんの書斎
作品中に出てくるたくさんの書斎の中で、自分自身のケースに通づるものがあった。それは作家・同時通訳者の米原真里さん(作中、文庫版あとがきでも触れられているが2006年没)の書斎だ。彼女の書斎には裏に目隠しされたところに『ひとやすみするベッド』がある。
実は自分の自宅の書斎もこの本を手に入れた2018年当時はカーテンを隔ててすぐ裏側、現在の書斎でも壁を隔ててすぐ裏にはベッド(=寝室)がある。今も昔も細かなレイアウトなどこそ違えど、寝室は遮光カーテンでほぼ完全暗くすることもできるようにしてあって、日中であっても仕事とかに疲れた時には少し横になったりもしている(生活が不規則で明るい時間に寝ることもよくあるから遮光カーテンはないと少し困る)。
ただ仕事中に横になって休む、こういうスタイルが果たして正解なのかはずっとわからないままだった。文脈を全てぶった斬ってその部分だけを切り取ったら、見る人によっては『サボってる』みたいに見えかねない。そういう意味では米原真里さんの書斎の裏にベッドがある、という話は少しだけ自分自身がホッとする材料になった。
ちなみに現在は仕事も自宅でずーっとしているのでベッドで横になるけど、結構大きなオフィスで仕事をしていた頃は自分のチームのエリアに大きめのソファを置いてもらっていて、そこで横になって休んでいた。
そして今ではチームのメンバーにも『テキトーに休んでる時あるから』と伝えているし、別にずっとぐだぐだしているわけではなくってちゃんと成果物は出すだけ出しておく。だからこういうスタイルで仕事をするのも間違いではないって自信を持って言えるようになった。
というかむしろ『サボってる』云々とは真逆、週末とか夜中とか変な時間に仕事をしていることが多いからなのか、個人的にはそれほど忙しいと感じていない時でも『サトウさん/のぶくんは忙しい(人だ)から』とかって言われることがよくある。まあ確かに現実問題として、チームの他のメンバーと比べると対外的な予定だったり打ち合わせだったりが多いことは事実かもしれないけど。これは立ち位置的にそういうもんだろうし、そういうのも今に始まったことでもないししょうがない。
まあそんなんだからこそ『テキトーに休んでる』は必要不可欠であったりもするんだ。
本文ではないところでもホッとさせられた一言
上述したような自分の仕事のスタイルが間違ってはいない、これはこれでひとつの答えであるんだってことにホッとさせられただけでなく、実はこの本はまえがきを読んでいた時点でひとつ別にホッとさせられたこともあった。
個人的には本の読み方って自由だと思ってはいるんだけど、自己啓発本でもそうだしネットにあるようなコンテンツでもそうだし、そこらじゅうに溢れかえっている『読み方の正解はコレです!』って主張には正直うんざりしていた。
本書のまえがきに以下のような一文がある。
本にはいろいろな読み方がある。枕元に一冊だけ置いて、毎晩毎晩その本だけを繰り返して読んだっていいし、一冊に五冊を同時進行で読んだっていい。
(文庫版/P. 9)
作品を書く側の人の中に、どんな読み方でも許容してくれている人がいるんだということに少しの安堵感というか・・・まあホッとさせられた。
自己啓発本はともかくとして、エッセイや文学作品、文芸作品を綴る人たちが『本の読み方って自由だと思っている』という考え方に対してどのようなスタンスなのか、例えば『私の作品は正座して姿勢を正して読め!』なんて言われてしまったら正直困ってしまうから。
今回はそこまで長くならないだろう・・・と思って一本の記事にまとめたけど、読み返してみるとまた長くなった。三部作に分けた前回ほどではないけども。それでも4,000字近くになってしまった。
次の書評候補の本もすでに何冊も目の前にあるんだけど、書くのにとにかく時間がかかる。それにしばらく前に読んだ本なんかは記憶がおぼろげなところもあるから、特に記事で言及する部分はちゃんと読み直したりしないといけないし。
まあまた、時間を見つけて書いてみることにします。